小沢健二「天使たちのシーン」


小沢くんのの1stアルバム「犬は吠えるがキャラバンは進む」に、
彼自身が書いたライナーノーツが掲載されています。
その中に、

どうかこのレコードが自由と希望のレコードでありますように。
そしてこのCDを買った中で最も忙しい人でも、
どうか13分半だけ時間を作ってくれて、
歌詞カードを見ながら『天使たちのシーン』を聴いてくれますように。
ついでに、時代や芸術の種類を問わず、
信頼をもって会いに来た人にいきなりビンタを食らわしたり
皮肉を言って悦にはいるような作品たちに、
この世のありったけの不幸が降り注ぎますように

小沢くんの曲で、何が好き?と聞かれたら、
「強い気持ち・強い愛」「ラブリー」「ある光」「さよならなんて云えないよ」
「ドアをノックするのは誰だ?」とかたくさんあるんだけど、
好きとかの感情を超越してる特別な曲は、
小沢くん自身も上に挙げたように「聴いてくれますように」と記している
天使たちのシーンだろうな、やっぱり。
シカオちゃんの曲でいうところの「黄金の月」かな)


この曲、13分31秒もあります。
でもね、全くその長さを感じさせません。
あと、この曲にまつわる話としては、
発売当時、この曲に感動し(すぎ)た某誌編集長の山崎さん(笑)が、
小沢くんがインタビューで言ってもいない
僕は救われたかったんだ」という言葉を大見出しにしちゃったという事件まで…。
(山崎さん、本当に小沢くんのこと好きだったのね〜。レポに愛があったもん)


日常のどこにでもあるありふれた風景。
海岸に遠く長く続く足跡、
街中で、誰かが放した風船が上空に飛んでいく様子、
それを見上げ行方を気にする人たち、
金色の穂をつけた枯れゆく草、枯れ落ちた木。
・・・いつか見たことがあるような風景を第三者的な視点で描きながら、
淡々とリズムを刻み、そして、淡々とした声で歌う。
季節は、夏から冬に静かに移り変わっていく。
そして、それまではどちらかというと「熱」を感じないのですが、
一転して「熱」を帯びてくるのが、↓の部分から。
 「冷たい夜を過ごす 暖かな火をともそう
  暗い道を歩く 明るい光をつけよう」
ここで、とても控えめなんだけど、意思っていうか決意みたいなものが示されてる。
それがさらに強く示されてるのが↓の部分。
 「毎日のささやかな思いをかさね 本当の言葉をつむいでる僕は
  生命の熱をまっすぐに放つように 雪を払いはね上がる枝を見る」
ここでいう「生命の熱」は体温であり、それは「生きてる」証ではないのか?と。
それを「まっすぐに」、迷いなく「外」に向かって放つ、
寒い冬の中で雪の重みに負けずそれを振り払って「はね上がる」枝を見て対峙する。
・・・すごい生命力を感じさせる描写だな〜。
そして、
 「涙流さぬまま 寒い冬を過ごそう
  凍えないようにして 本当の扉を開けよう カモン!」
と、さらに自分以外にも語りかける。
そして、それまでいろんなシーンを見てきたけど、
最後に一つのシーン、街角へと辿りつく。
 「神様を信じる強さを僕に 生きることをあきらめてしまわぬように
  にぎやかな場所でかかり続ける音楽に 僕はずっと耳を傾けている」

(「耳を傾けている」は繰り返し)
何かを信じてしまう事はとても容易いことだと思う。
それが自分の判断を自分自身を放棄してしまうことならば。
その何かに全てを預けてしまうことは、本当はとても怖いことなのでは?。
だって、その何かによって否応なしに自分が左右されるわけだから。
だからこそ、信じるためには信じるに足るだけの心の強さが要る。
そして「生きる」ことそのものも同様ではないか、と思う。
その為に必要としてるのが、「音楽」である、と。
しかも、「にぎやかな場所でかかり続ける音楽」
いわゆるポップミュージックってヤツですね。
それに「僕はずっと耳を傾けている」
小沢くんの、音楽にポップミュージックに対する揺るぎない信頼、
そして、その音楽の作り手側にいる自分に向けての音楽に対する強い決意、
そんなことを強く感じました。
音楽がなくても確かに生きていける。
でも、音楽が私たちのココロを強くしてくれることもまた事実。
(音楽以外の芸術とよばれるものも全て、だと思いますが…)
だからこそ「ずっと耳を傾けている」
私も、にぎやかな場所でかかり続ける音楽にずっと耳を傾けていくだろう。
音楽を必要としてるし、そして、何よりも音楽を信頼してるから。


曲中にリフレインされている
 「愛すべき生まれて育ってくサークル
  君や僕をつないでる緩やかな止まらない法則(ルール)」
小沢くんはライブで、
「サークルってテニスサークルとかのサークルじゃないからね」
って言っていたけど(笑)
ここでいうサークルやルールっていうのは
生きてるということは、一瞬一瞬の連続であり、
いろんな人やものとのつながりのことでもある、と思うのです。
たくさんのことで私たちはそれぞれが繋がってる。


私は、「カモン!」っていう部分が一番好きなのですが、
ライブで小沢くん歌ってないのかな?記憶にあまり残ってないから。
ライブビデオの「The First Waltz」や「VILLAGE」でも歌ってないなあ〜。
(「CITY COUNTRY CITY」には収録されてないし)
CDではこの「カモン!」って声がかかると、
そこに天使たちが降りてくるような、
私達もそこに集められるような、そんな気がします。
・・・ライブでこの「カモン!」を歌わないのは、
わざわざ呼ばなくてもちゃんと天使たち=私達が同じ場所に集まってるから、
呼ぶ必要がないからなのかな?なんて思います。


日常の中のささやかでさりげない様々のシーン。
そこに私たちは存在してるし生きてる。
そんなありふれたシーンを見過ごさずに認識することこそ
「生きてる」ことを強く感じさせてくれるように思います。
生きることに疲れたりうんざりしたり迷ってしまったりすることはあるけど、
そんな時には、どうか13分半だけ時間を作って歌詞カードを見て、
この「天使たちのシーン」に耳を傾けて欲しいな。
人によって違いはもちろんあるだろうけど、
多分、静かな「熱」のチカラをもらえるはず、と思う。


犬は吠えるがキャラバンは進む

犬は吠えるがキャラバンは進む

(「天使たちのシーン」は7曲目です)


dogs

dogs

(↑の「犬は〜」が廃盤となり改題され再発。
 上との違いは装丁とライナーノーツが無くなっています。)



なんだかハズカシイ文章だ…
要は「天使たちのシーン」を聴いて!、ってことで。。。